大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成6年(ワ)3762号 判決

原告 今井英人

右訴訟代理人弁護士 谷口和夫

被告 株式会社中京銀行

右代表者代表取締役 富田信夫

右訴訟代理人弁護士 大場民男

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一原告の請求

被告は原告に対し金一五〇〇万円及びこれに対する平成三年五月三一日から完済まで年一五・五パーセントの割合による金員を支払え。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は被告知立支店との間で、平成元年六月ころから中京カードローンビッグ取引をしていた。

2  原告は平成三年四月ころ被告知立支店支店長相原義弘(以下「相原」という。)、同支店長代理小塚新一(以下「小塚」という。)から、ゴルフ会員権の「念書売買」に投資したらどうかと勧められた。右勧誘の事情は次のとおりであった。

(一) 有限会社三重ゴルフ(以下「三重ゴルフ」という。)から白山ヴィレッジゴルフ倶楽部(以下「本件ゴルフ倶楽部」という。)ゴールド会員(入会保証金六五〇万円)を名義変更しないで買い受ける。

(二) 代金は一五〇〇万円であるが、年末には一八〇〇万円で売却できるし、翌年春まで待てば二四〇〇万円で売れる。右代金相当額は被告知立支店において融資する。

3  原告は、銀行支店長らの勧める取引なので、安心して投資することにし、平成三年五月三一日被告から一五〇〇万円借り受け、同日三重ゴルフに支払った。

4  ところで、右会員権の売買はバブル経済下の極めて危険な投機的取引であった。本件ゴルフ倶楽部は平成五年七月三六ホール本オープンしているが、名義変更停止中で、この先いつ名義変更できるようになるのか不明であり、原告としては自分の名義にすることも、他に売却することもできない状況である。右状況にあるゴルフ会員権を転々と売買していくのが「念書売買」で、利益を上乗せして順次売却を繰り返すものであるから、ネズミ講と同様にいつかは破綻する極めて危険な取引である。

5. 被告知立支店長らは、営業実績(貸付)を上げるため、実態のない極めて危険な投資的取引であることを知りながら、危険性について説明することもなく、かえって儲かるなどと言って、原告に銀行借入までさせて投資することを勧めたものであり、右行為は違法であり、不法行為を構成する。

6. 原告は被告知立支店長らの不法行為によって、被告からの借入金一五〇〇万円及び借入金利相当の損害を被った。被告は知立支店長らの使用者として原告に対し右損害につき賠償責任がある。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1は認める。

2  請求の原因2は否認する。被告は本件ゴルフ倶楽部の会員募集にかかる入会金収納事務とゴルフローンの取り扱いをしていた。その個人、法人正会員(記名式一名)の会員権募集の内容は左記のとおりであった。

(一) 昭和六二年九月 四〇〇万円(入会保証金三〇〇万円、入会登録料一〇〇万円)

(二) 平成元年一〇月 一五〇〇万円(預り保証金一二八〇万円、登録料二二〇万円)

(三) 平成三年五月 一八〇〇万円(預り保証金一五三〇万円、登録料二七〇万円)

平成三年五月二〇日過ぎころ三重ゴルフの代表者三重野駿助(以下「三重野」という。)が相原に電話で「現在本件ゴルフ倶楽部の個人正会員を一八〇〇万円で募集中である。また、名義変更に必要な書類一式付であるが、名義変更をしないということであれば一五〇〇万円のものがある。顧客を紹介してほしい。」との依頼があった。

相原は小塚外数名の得意先係全員に右の依頼を告げたところ、小塚は原告方を訪れた際に本件ゴルフ倶楽部の会員募集の話と名義変更をしない売り物がある話をした。

原告は売り物の方に興味を示して、小塚にその売り物が残っているかどうかを質問した。小塚はその場で原告の電話を借りて相原に連絡したところ、自分ではわからないので直接三重野に聞いてくれといわれ、三重ゴルフの電話番号を教えてもらった。

そこで、小塚は三重ゴルフへ電話したところ、三重野が電話口に出て「残っている」とのことであったので、電話を切らずに、その旨を原告に伝えた。さらに、原告から「値段も聞いてくれ」と言われたので、小塚は三重野に問うたところ「一五〇〇万円である」とのことであったので、その回答を原告に伝え、電話を切った。

それを聞いた原告は売り物の購入を希望し、三重野と出会える日時、場所を調整してくれと言われたので、小塚は再び三重野にその場で電話したところ、平成三年五月三一日被告知立支店で会うことになった。

右同日原告と三重野とは右会員権の売買について折衝のうえ合意し、書類を取り交わし、代金を授受した。

被告は右の程度で両者を取り持ったに過ぎず、売買の条件を交渉したものではない。

3  請求の原因3のうち、被告が平成三年五月三一日原告に対し融資したことは認め、その余は否認する。融資額は一五六〇万円である。

4  請求の原因4は否認ないし争う。名義変更は停止期間が経過し、相当の名義変更料を支払えば可能であり、原告は名義変更料の支払をしなかったために名義変更ができなかったにすぎない。

5  請求の原因5、6は否認ないし争う。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求の原因1は当事者間に争いがない。

二  証拠(甲一、甲二、甲四の一ないし一一、乙一ないし乙三、原告本人、証人小塚新一)によれば、以下のことが認められる。

1  被告知立支店の得意先係であった小塚は支店長の相原から本件ゴルフ倶楽部の一般会員を一八〇〇万円で募集するように指示を受けるとともに、名義変更に必要な書類だけで売買する場合には一五〇〇万円の売り物がある(以下「念書売買」という。)と聞かされていたので、以前にゴルフ会員権を購入したことのある原告方を平成三年五月ころに訪れた際に本件ゴルフ倶楽部の会員募集の話とともに念書売買の話をし、念書売買の場合年末には一八〇〇万円で売ることができ、銀行融資の金利を支払っても利益がでると言って勧誘した。

原告は念書売買に興味を示して、小塚にその売り物が残っているかどうかを質問した。小塚はその場で原告の電話を借りて相原に連絡したところ、三重野自身に確認してほしいと言われたので、三重ゴルフへ電話した。三重野から「未だ残っている」と聞いた小塚は、さらに原告の指示で三重野に金額を確認したところ、三重野から一五〇〇万円である旨の回答を得たので、その旨を原告に伝えた。

それを聞いた原告は念書売買に乗り気となり、三重野との面談を希望したので、平成三年五月三一日被告知立支店で会うことに決めた。

2  そして、原告は平成三年五月三一日三重ゴルフから京聡名義の本件ゴルフ倶楽部の会員権を一五〇〇万円で買い受けたが、その際、相原が三重野に右会員権は同年末には一八〇〇万円になり、翌年四月には二四〇〇万円になることを確認した。右売買は、会員権が名義変更停止中であるので、入会保証金預り証書と名義変更に要する書類一式を交付することによって行われ、いわゆる「念書売買」であった。

3  しかし、その後三重野は詐欺容疑で警察に逮捕され、右会員権を売買することができず、平成五年暮れころ、小塚から二五〇万円で名義変更ができるとの申し出があったが、当時ゴルフ会員権の価格が下落していて、名義変更したとしても希望の価格で売れる可能性がなかったので、原告は名義変更をしなかった。

三  原告は念書売買はネズミ講にも比すべき危険性を有する投機的取引であるから、右取引を勧誘する場合には右取引の危険性を説明する義務を負うと主張するので判断するに、極めて危険な投機的取引を他人に勧誘する者は、右取引に伴う危険性を説明するなどして、勧誘を受けた者に不測の損害を被らせないようにすべき注意義務があるというべきである。

ところで、本件の念書売買は名義変更停止期間中にゴルフ会員権を売買するものであるが、このような取引にはゴルフ会員権の流通価格の下落による損失の危険性があり、また、買受人を見つけることがより困難であるために、投資資金を適時に回収することができないことがありうるであろう。

しかし、このような念書売買の危険性は、投資に通常伴うものであって、特に危険性が高いということはできないし、また、一般に容易に判断することができることであって、あらためて説明をしなければならないものではない。

したがって、小塚ないし相原が、名義変更停止中のゴルフ会員権の売買を勧誘したこと自体が違法ということはできない。

なお、本件の場合は、三重野は年末には一八〇〇万円、翌年春には二四〇〇万円で売れると言ったことを、小塚は原告に話し、相原はこれを三重野に確認しているが、右約束は、同人がその後警察に逮捕されたために、履行されなかったが、このような約束をして売買をしたことが違法であったと認めるに足りる証拠はないし、また、小塚は右約束を取り次ぎ、相原はこれを確認したにすぎず、相原及び小塚が原告に対し利益を保証して本件念書売買を勧誘したものと認めるに足りる証拠はない。

四  以上によれば、相原、小塚の行為は違法ということはできないので、原告の請求はその余を判断するまでもなく理由がない。

(裁判官 青山邦夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例